2011年9月28日水曜日

おゝフロンティア  ルイ・ラムーア 大門一男訳

1965


書 名 おゝフロンティア 西部開拓史物語 *暮しの手帖の本   
著 者 ルイ・ラムーア(1908−1988) 
訳 者 大門一男(1807−1974) 
発行人 大橋鎭子
発行日 昭和40年1月15日
発 行 暮しの手帖社
発行所 東京都中央区銀座西8−5
印 刷 大日本印刷株式会社 
判 型 B6版変型 並製 無線綴じ 本文252ページ
定 価 320円


表紙ウラから始まるリード


奥付


【ひとこと】大門一男のあとがきによれば、「1959年『ライフ』誌に連載された写真物語にヒントを得て、脚色者ジェイムズ・R・ウェッブがMGMのシネラマ『西部開拓史』の脚色として書き上げたものを、西部小説で有名な作家ルイ・ラムーアがさらに小説として書きあらためたものである」という。つまり、映画のほうが小説よりも先。

原題は “HOW THE WEST WON” ——それを花森安治は、表紙ウラのリードにうたっているように、この物語から開拓者の暮しをささえたフロンティア・スピリットを読みとってほしくて、『おゝフロンティア』としたのであろう。

本書は「*暮しの手帖の本」と呼び名のついたシリーズの一冊。このシリーズには、なぜか装釘した花森安治の名まえがない。記しわすれたともおもえないのだが、あるいは表紙の絵が自作ではないからか。


表紙全体

しおり(登場人物を紹介)


【もうひとこと】花森安治は、昭和38年5月発行『暮しの手帖』69号に、「はるかなかなたには リリス・プレスコット伝」を書いてのせた。そのきっかけは映画『西部開拓史』を見て感動したからと言っている。

——もっとも感動した場面は、あのシネラマの巨大な画面いっぱいにひろがった西部の砂地の、左の隅のほうに小さく動いてゆくながい幌馬車隊の光景であった。(略)この幌馬車隊のどこかに、彼女(=リリス)もいた筈である。

リリス・プレスコットは主要登場人物のひとり。映画で演じたデビー・レイノルズの可憐な容姿が、いくたの苦難にもめげずに生きぬくリリスの強さを、いっそうきわだたせた。それが花森をしてリリスの小伝を書かせた、と小生はおもう。

——当時のいくつかの記録の底に共通して流れていたのは、女性男性を問わず、このリリスの精神であった。彼等はみな帰ることをしなかった。さあ、行こう、これが彼等みんなの合言葉だったのである。

(註・花森安治の「はるかなかなたには リリス・プレスコット伝」は、簡潔に「リリス・プレスコット伝」と改題し、『一銭五厘の旗』に収載している)

日本は戦争に敗れた。敗れてのち日本がふたたび立ち上がれたのは、足の引っ張り合いにうつつをぬかすことなく、平和で豊かに暮したいという日本人みなの願いと、前向きの姿勢があったからではなかろうか。


【さらにひとこと】 小生が編集部にいたころ、強く印象づけられた花森安治のことばがある。「中の一人は君にして、中の一人は僕なるぞ」と対句になった言葉であった。ずっとその言葉が気になっていた。しらべてみると、戦前の『尋常小学校国語読本』の中にあった。「長い行列」と題する詩である。以下に全行うつす。


一年生を先頭に、二、三、四、五、六年が 四列になりて歩く時、
全校生徒の八百は八十間もつゞくなり。

日本中の小学生、八百萬人ありといふ。
八百萬の小学生、四列になりて歩かんか、八十萬間つゞくべし。

君、此の長き行列の、
中の一人は君にして、中の一人は僕なるぞ。

日本中の小学校、三萬近くありといふ。
三萬近き学校に、分かれて学ぶわれわれの、
望に向ふ足なみは、皆一せいにそろふなり。

世界に比なき帝國の、
強き御民となるべしと。強き御民となるべしと。


花森安治は、「中の一人は君して、中の一人は僕なるぞ」と、その対句だけを、ことあるごとに部員に言って聞かせた。一言でいえば、人間みな同じという平等思想であろう。人生とは「行列」のようなものかもしれない。じぶんだけは違うとおもっても、ひっきょう同じ「時」を、同じように歩んでいる。よろこびもあり、悲しみもある。気高くもあり、愚かしくもある。くりかえしつづく長い行列。——
そんなふうに見ると、人生って、まんざらでもないな、とおもう。