2012年3月7日水曜日

【松江だより 花森安治展 その2】

●しおり
チケット半券でしおりを作る


【ひとこと】今回の花森安治展の会場出口に、たのしいコーナーがある。入館チケットの半券でしおりを作る特設ブースがそれだ。手づくりの味わいを愛した花森安治の展覧会ならではの美術館の粋なはからいは、感動の余韻をさらに深める。

上がその完成品で、これを送ってくださった方によれば、パンチでアナをあける位置を正確にさだめるのが、けっこう難しいらしい。おりしも来場中の、本展開催に協力した暮しの手帖社の若き営業ウーマンが、しんせつに手伝ってくれたとのこと。やさしさは、花森が好んで描いたランプのように、人の世をあたたかく照らす。

美術館で、いっしょに作ってみましょうよ。



1983


書 名 家電今昔物語   
著 者 山田正吾(聞き書き森彰英)
装 釘 田淵裕一
発行者 上野久徳
発行日 昭和58年7月10日
発 行 三省堂
発行所 東京都千代田区三崎町2−22−14 
判 型 四六判 上製丸背ミゾ カバー 糸綴じ 本文216ページ
定 価 1400円

【もうひとこと】 しおりをはさんでみた。せっかくだから、花森安治にちなむエピソードをふくむ本にはさんだ。NHK番組プロジェクトXに紹介されて知ったひとも多いはずだけれど、著者は電気釜を発明した山田正吾氏。こんな箇所があった。《》で引用する。

《実は、電気釜を作ったときに、こっぴどくやられたのは「暮しの手帖」でした。たしか「便利なようで不便な電気釜」という斬り口の記事でした。しかし一年後に、当時、出揃った電気炊飯器の商品テストをした記事が掲載され、このときは叩いても見守ってくれていたのだなと、編集者の公正さにホッとしたことを覚えています。

それから二十年近くたってから、花森安治氏といろんなことをお話ししていたとき、こう言われました。
「政府が真っ先に勲章をやるべき人が二人いる。その一人はインスタントラーメンを考えた人、もう一人が電気釜を考えたキミだよ」
私はたちどころに「いやですよ、おカマの勲章なんて」と答え、大笑いになりましたが、このように、花森氏を含め「暮しの手帖」には懐かしい思い出が多いのです。》

——花森の考える商品テストは「文明批評」であり、消費者のためでなく、生産者のためであった。意地悪な欠点さがしではなかったことは、山田氏の言からもあきらかであろう。展覧会開催初日のギャラリートークで、元編集部員の河津一哉(81)が、往時の「暮しの手帖」の商品テストについて語ったそうだ。尊敬する先輩の話、聞きたかったなあ。


2012年3月2日金曜日

【松江だより 花森安治展 その1】

●パンフレット

パンフレット表紙


編集人 上野小麻里(島根県立美術館主任学芸員 本展企画者)
発行人 くらしとデザイン『暮しの手帖』花森安治の世界 実行委員会
発行所 島根県松江市袖師町1−5 島根県立美術館
印刷所 有限会社松陽印刷所
判 型 タテ155×ヨコ105(ミリ)表紙とも全16ページ 中綴じ
無 料


【ひとこと】さきごろ開幕した松江の花森安治展は、見る人に春の日ざしのような暖かな感動をあたえ、稀代の天才編集者への関心は、日ましに高まっているようだ。いわゆる雑誌編集者のしごとから漠然とうけるイメージとはひと味もふた味もちがう、それは細やかで美しい手しごとの世界が、眼前にくり広げられているからであろう。おどろきの声と感嘆のため息が、会場のそこかしこにもれているという。

開催当日、展覧会を訪れた方から、愛らしいパンフレットをお送りいただいた。わずか16ページだが、本展企画者である上野小麻里さんの、卓越したセンスがひかっている。花森安治と『暮しの手帖』のスピリットを、みごと凝縮している。感にたえた。

資料としての価値が高い。花森安治が編集した『暮しの手帖』でテストした商品の全品目を、4ページにわたって列挙した。そこに昭和の暮しがあった。それを見つめたジャーナリズムがあった。ひとは花森安治と『暮しの手帖』のしごとを如実に知ることができる。

花森安治は言っていた。「買った人にオツリがきたと喜んでもらえる、それが親切な商品だ」——さしずめ松江での花森展は、この出色のパンフレットを手にすることにより、訪れたひとは予期せぬオツリがきたと必ずや、うれしくなるにちがいない。

誘いあって行かなくっちゃ!