2011年7月15日金曜日

愛のかたみ 新書版

1958


書 名 愛のかたみ 新書版   
著 者 田宮虎彦(1911−1988)・田宮千代(1913−1956)  
解 説 草間平作(1892−1985)
発行人 神吉晴夫
発行日 昭和33年7月25日(初版)
発 行 光文社
発行所 東京都文京区音羽町3−19
印刷人 山元正宜
印 刷 三晃印刷株式会社
製 本 関川製本
判 型 新書判 並製 平綴じ カバー 本文332ページ
定 価 200円(昭和36年9版)


表紙全体

奥付


カバー全体

 【ひとこと】さすがKAPPA BOOKSをつくりだした神吉晴夫である。よみやすいが決して「通俗」的とはいえぬ本書を、すぐにKAPPA BOOKSの一冊にくわえ、売れゆきに勢いをあたえた。新書版の表紙も、花森安治のおなじイラストと描き文字をつかっている。これぞまさに出版人としての神吉のカンと読みの冴えというものであろう。

単行本と新書版の装釘のちがいは見てのとおりだが、新書版には解説を加えた。「『愛のかたみ』を読む」と題した草間平作の平易な文章は、21ページにもおよび、田宮と夫人のふたりによる本書について、情理をつくした読書案内になっている。またそれは田宮への一連の批判や中傷への反論にもなっており、一読の価値がある。

1955 カバー 斎藤清の木版画
【もうひとこと】新書版のウラ表紙には、田宮虎彦と千代のポートレートがのせられている。夫人千代が手にしているのは、KAPPA BOOKSにおさめられた田宮虎彦の『随筆たずねびと』である。本ができあがったとき、ふたりして光文社をおとずれ、記念に撮ってもらったようだ。

その『たずねびと』のカバーを表紙にまきこんだ部分に、花森安治による田宮人物評がのせられている。題して「いい奴だなあ」。すこし長いが以下に引用する。

——ときどき、田宮虎彦って、どんなひとか、と聞かれることがある。ぼくが、ふるい友だちと知ってのことだろう。しかし、そんなとき、いつだって、うまく答えられたことがない。とにかく、いい男でね、ぐらいになってしまうが、これでは、もちろん答えにはならないから、まあ、ときどき彼の書く、みじかい文章を読んでごらんなさい、とつけ加える。行きとどかない返事のようだが、じつは、これが一番たしかなことだからである。

たとえば、この本のはじめにのっている「地獄極楽図」という文章、枚数にして五、六枚のみじかいものだが、これを読むと、なまじ、じかに田宮と向きあって、あの人のよい顔を半日みているより、もっと、なにか直接な、じいんとしたものが、こちらの腹の底に、じかに、つたわってくる。小学校のときから、つきあっている友だちのはずなのに、いまさらのように、田宮って、いい奴だなあ、と思うのである。こういうときの気持のよさは、ぼくなどの暮しでは、そうめったにあるものではない。——

ここに花森が賞揚した「地獄極楽図」は、じつは昭和23年発行の『美しい暮しの手帖創刊号』のために田宮が書いた小品である。 花森は、田宮の随筆集のちょうちんを持ちつつも、みずからの雑誌の存在をしめすことを忘れていない。こんなところに小生は、花森安治と神吉晴夫の阿吽の呼吸を感じるし、田宮ともども三人のかわすニッコリが目にうかぶ。