2016年10月15日土曜日

『暮しの手帖』と花森安治の素顔

カバー おもて


書 名 『暮しの手帖』と花森安治の素顔
共著者 河津一哉+北村正之
構 成 小田光雄(インタビュー)
装 釘 宗利淳一
発行日 平成28年10月15日
発 行 論創社
発行者 森下紀夫
発行所 東京都千代田区神田神保町2−32 北井ビル
印 刷 中央精版印刷(組版 フレックスアート)  
判 型 四六判 本文183ページ
定 価 1600円+税


著者の河津一哉さんから早速ちょうだいしました。
《「素顔」といいながら通りいっぺんで、かの「編集室」の生き生きとした描写の足もとにも及びません》
と、一筆箋に添えられた河津さんのことばは、もちろんその謙虚すぎる人柄をあらわすものであって、本書の内容はけっして「通りいっぺん」ではありません。
河津さんは『暮しの手帖』のもっとも古い男子編集部員で、同じ年に入部の宮岸毅さんとともに、花森安治の厚い信頼をえていた大先輩です。河津さんも宮岸さんとおなじで、とても慎み深く、ことばをよく選んで、テーマとなっている花森安治の本質を伝えようとします。だから読んでいると、おやっとおもうところが必ずあります。そこにテーマを解く<鍵>が埋められています。そこを読みすごすと本書は「通りいっぺん」になるとおもいます。たとえば、河津さんのこんなことば(118〜9頁)に、『暮しの手帖』の栄光と挫折がさりげなく浮かび上がります。

《それと『暮しの手帖』はあくまで花森の雑誌だったということですね。例えば、広告を載せないことは花森の信念とエディターシップに由来するものだし、広告ではなく読者がスポンサーになっていることに自信を持っていた。
そうした彼の信念、エディターシップ、自信といったものは大橋鎭子にしても考えが及ばなかったし、我々も同様だった。そうしたことを含め、花森なき後の会社の将来に関して、見通すことは無理でした。》

本書は、出版状況クロニクルやブログ古本夜話で著名な小田光雄さんによるインタビューで構成されています。小田さんは、出版業界の生き字引と称される博識をもって、さまざまな角度から花森安治と『暮しの手帖』に迫ります。それに相対する元編集部員のうけこたえは、小生も端くれとはいえ元部員だったせいか、心情がよくわかり、節度をもって抑制されたふたりの語り口が、とてもさわやかでした。認識をあらたにさせられた一冊です。

朝ドラ「とと姉ちゃん」と共に、鎭子さんをめぐる多くの書籍がでて『暮しの手帖』はいちやく話題になりました。ドラマがおわり、押しよせた波がひこうとするいま、憲法の尊厳が崩されようとしているとき、花森安治の『暮しの手帖』って、いったい何だったのか、それをあらためて知りたいという方に、本書をおすすめします。

澤田編集長にかわってから、編集部と読者のあいだが狭まり、著者と読者のあいだが近づいたように感じています。それは、上から目線で教えようというのではなく、読者と共に暮しを考え、いっしょに良くしていこうという姿勢への変化、の現れではないでしょうか。言いかえれば、それは花森イズムへの回帰であり、「とと姉ちゃん」はそのきっかけを作り、後押しをしてくれたドラマのように思えます。


【幻戯書房の近刊案内に注目!】
津野海太郎著『花森安治伝』であきらかにされた、花森安治の従軍手帖と、銃後の妻子あてに書いた書簡などが、一冊にまとめられ、11月下旬刊行されます。その概要を幻戯書房のサイトからコピペして以下に供します。来月は、花森安治ファンにとって、ひとしお楽しみ多き月になりそうです。
 
・花森安治 著  土井藍生 編
・書名『花森安治の従軍手帖』
・A5判上製 256頁
・予価2500円 

敗戦以前、花森安治が二度の従軍(38年、43年)と大政翼賛会宣伝部時代に書き残した手帖と書簡類を100余点の写真とともに収録。

<構成内容>
1 「従軍手帖」を含む39年~45年の手帖5冊
2 妻子宛に送った40年~44年の書簡・葉書13点
3 既刊未収録エッセイ、卒業論文「社会学的美学の立場から見た衣粧」
4 巻末資料 回想談・土井藍生 
    解説・馬場マコト(『花森安治の青春』著者)



2016年9月18日日曜日

ぼくの花森安治

ぼくの花森安治 カバーおもて

書 名 ぼくの花森安治
著 者 二井康雄(ふたい・やすお)
校 閲 円水社
装 釘 三木俊一(題字 二井康雄 カバー画 佃二葉)
発行日 平成28年8月13日
発 行 CCCメディアハウス
発行者 小林圭太
発行所 東京都目黒区目黒1−24−12
印刷所 慶昌堂印刷株式会社
判 型 B6 本文173ページ
定 価 1400円+税

元「暮しの手帖」編集部員、二井康雄さんの回想記です。
二井さんも小生の先輩にあたりますが、前回紹介の小榑雅章さんからすれば後輩です。しかしカバーにも記載されていますように、在籍40年のキャリアを誇るベテラン編集者であり、書家、詩人、映像評論家などなど、その多彩な才能をいかし、現在も活躍しています。

二井さんは、小生がいたころの編集部ではまだ若手で、諸先輩のしごとのかげにかくれがちでしたが、たのまれるとイヤといえない質でした。たとえば冬の研究室でつかう暖房用のアラジン・ブルーフレームの管理をまかされ、ひとり黙々と整備していた姿が想い出されます。暮しの手帖編集部のしごとは、二井さんのような質実な存在もあって、成り立っていたのです。

とはいえ二井さんは、当時からマニアックな面もあり、映画や音楽への造詣もふかく、自宅の壁面に、ドーナツ盤レコードがぎっしりつまった棚があって、ふだんのイメージを一新させた記憶があります。本書をよみ、二井さんの若き日の研鑽がしごとに開花しているのがわかり、ふかく納得しました。その意味で本書は、雑誌編集者にさまざまなタイプがある中で、ひとつのお手本の姿がしめされているとおもいました。

そしてつまるところ、二井さんの文章をよみ、あらためて、花森安治のひと(編集者)を育てる力量の大きさに気づかされます。本書にこめた著者のおもいが、しっかり届く回想記。おすすめです。

【あらずもがなのひとこと】
本書紹介が、刊行後1か月以上もおくれ、申しわけありません。ここ信州の地域性なのでしょう。書店に大河ドラマ「真田丸」の特設コーナーはあっても、「とと姉ちゃん」コーナーはありません。類書が多く刊行されているのに、ひょっこり書店に立ち寄って買う、ということは不可能なのです。この先、町の書店は、どうなるのでしょうね。


2016年7月15日金曜日

「暮しの手帖」初代編集長 花森安治

暮しの手帖別冊 表紙


誌 名 「暮しの手帖」初代編集長 花森安治 
編集兼発行人 阪東宗文
発 行 暮しの手帖社
発行所 東京都新宿区北新宿1−35−20
発売日 平成28年7月8日(臨時増刊号)

この、ハッセルブラッド(カメラ)を肩にかけているダンディな男性こそ、伝説の天才編集長、花森安治その人です。

かっこよすぎて、見とれてしまう。 うれしくなってしまう。
表紙を見ただけで、酔ってしまうのだから、あとは・・・。

なかを読んで、おもわずうなりました。花森安治のひとがら、その多彩な才能が、さまざまな角度から、あざやかに描かれています。1997年にでた「保存版花森安治」にあった、散漫な印象が、この別冊では、きれいに払拭されていました。だから、 往年のファンはあらためて、花森を知らない若い世代はおどろきをもって、天才編集者の魅力を、じゅうぶん堪能なさるでしょう。

多くの手しごとが、わかりやすく紹介されています。若き日の写真のかずかずが、まさに異彩を放っています。くわしくは、どうぞ下記のサイトをごらんあれ。
http://www.kurashi-no-techo.co.jp/bessatsu/e_2094.html

<花森安治の仕事展 来春開催決定>
 世田谷美術館で、「花森安治の仕事展——デザインする手、編集長の眼」と題する展覧会が来春開催されます。期間は2017年2月11日(土)から4月9日(日)あなたの眼で、華麗でかわいい作品のかずかずを、じかに見てください。

【必見! NHK Eテレ 日曜美術館】
7月17日(日)午前9時、NHK Eテレ「日曜美術館」で、花森安治の描いた『暮しの手帖』30年間の表紙画のかずかずが、初めてテレビで紹介されます。世田谷美術館での展覧にさきがけての放映で、お住まいが遠くて来館のむつかしいかたには好機です。ご家族そろってごらんください。花森安治は、絵を描いても一流であった、それが伝わります。
http://www4.nhk.or.jp/nichibi/x/2016-07-17/31/12617/1902689/ 


【あらずもがなのひとこと】
こんかいの参議院選挙は、きわめてざんねんな結果でした。
美しいものを見ると、こころが和みます。やさしくなれます。
花森安治の願いと祈りが、あなたの胸にとどきます。
こころがざらついたあなたに、ぜひ、おすすめしたい一冊です。
選挙に勝ったと熱狂しているあなたにも、ぜひ読んでいただきたい一冊です!

2016年7月1日金曜日

花森さん、しずこさん、そして暮しの手帖編集部

カバーおもて


書 名 花森さん、しずこさん、そして暮しの手帖編集部
著 者 小榑雅章(こぐれ・まさあき)
校 閲 大沼俔子
装 幀 佐々木暁(装画 花森安治)
発行日 平成28年6月11日
発 行 暮しの手帖社
発行者 阪東宗文
発行所 東京都新宿区北新宿1−35−20
印刷所 精興社
判 型 B6 本文399ページ
定 価 1850円+税


朝ドラ「とと姉ちゃん」が始まって、小生ごとき者にも取材や原稿依頼がとびこんできます。 そんなとき、たかが六年ほど花森さんのもとで働いたからと、しゃしゃり出るのは図々しく、われながら如何なものか、とおもってはいます。でも自分が、見たまんま、聞いたまんま、感じたままを述べればいい、花森安治と『暮しの手帖』のことです、いいかげんなまま捨て置かれるわけはなく、だれかが事実をおぎない、その全貌をあきらかにしてくれるとおもって、本がたくさん出るのをよろこんでいます。

そんな、つぎつぎと類書が出る中で、こころ躍る一冊が、ようやく刊行されました。読みながら感嘆することしきりでした。小生とは比べものにならない小榑先輩のキャリアが、内容を厚く濃いものにしています。小榑先輩の「いまこそ書かねば」という気魄が、始めから終わりまで、ひしひしと伝わって圧倒されます。その根底に流れるのは、暮しへの愛情と、暮しを踏みにじるものへの怒りだとおもいます。そして拙著『花森安治の編集室』にはない気配りが、文章にも行間にも、いや本ぜんたいに満ちていて、じつに爽快でした。

花森安治に培われた文章力がみごとです。これぞ暮しの手帖編集部の歴史をものがたる名著。どなたにも、ぜひ読んでいただきたい本です。

小榑さんのブログを紹介させていただきます。いまの日本の状況を憂う危機感が、強く迫ってきます。ジャーナリストとして、かくありたいものです。(下記をクリック)
http://blog.livedoor.jp/moshihana/


【追記】
今月は同じく編集部先輩の二井康雄著『ぼくの花森安治』(メディアハウス)も刊行されるようです。こちらもたのしみです。でも地方に暮していると、近刊も店頭ではなかなか手に入りません。紹介がおそくなること、ご了承ください。





2016年4月8日金曜日

花森安治の編集室(文春文庫)

花森安治の編集室 文庫版カバーおもて


書 名 花森安治の編集室 「暮しの手帖」ですごした日々
著 者 唐澤平吉
装 釘 大久保明子(カバー写真提供 土井藍生)
発行日 平成28年4月10日
発 行 文藝春秋
発行者 飯窪成幸
発行所 東京都千代田区紀尾井町3-23
印刷所 図書印刷(DTP ジェイ エスキューブ)
製本所 加藤製本
判 型 文庫 本文282ページ
定 価 640円+税


晶文社から1997年9月に刊行された拙著の文庫による復刻版です。
「怖いもの知らずゆえに書けた本」が文庫担当者の読後評でした。それがこんかい復刻の僥倖にめぐまれたのは、NHK朝の連ドラ「とと姉ちゃん」に便乗してのこと。暴走する馬の尻尾にしがみつくハエのごときで、こわがりの小生、気が気ではありません。

と言いながらも、「とと姉ちゃん」にあやかって読売オンラインに寄稿しています。長文にもかかわらず、ほぼ原稿どおり掲載していただきました。下記をクリック。
http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20160404-OYT8T50080.html?from=ytop_os2_tmb

『暮しの手帖』の文章を書くうえでだいじなことを、花森安治は時々に説きました。拙著に、一つ書きもらしたことがあります。
「ひとを描くときは浪花節だ」——
つまり、ひとを批評家の目で描いてはいけない、というような意味だろうと理解しています。それができているかどうか、自信なんてありませんが、わたしはその花森のことばを頭においてかいたつもりです。

若書きゆえの粗雑な文章で、こんかい読みなおして身の縮むおもいでした。けれども生来アタマも粗雑にできているせいで、じぶんが書いた文章を、いつしかおもしろがって読んでいるのんきな自分がいて、まったくもってアホかいな、でした。 お気がむけば、どうぞ読んでやってください。本日発売です。


カバーうら 帯とも


晶文社版は、平野甲賀さんの装釘でした。文庫版は大久保明子さん。花森さんの愛娘土井藍生さんからお借りした写真に、大久保さん手作りの文字で、あたたかみのあるやさしいカバーにしてくださいました。身にあまる光栄です。

ところで、じつは拙著にはもう一人、カバーをデザインしてくれた方がいます。グラフィックデザイナーの望月五郎氏。1998年4月から放映された東芝日曜劇場『カミさんなんかこわくない』に登場し、ドラマの中でカバーを制作してくれました。望月氏を演じていたのが天下の二枚目俳優の田村正和さん。ドラマの演出に平野甲賀さんが直接協力していたのでした。わがカミさんは、美男の田村さんをみて絶叫し、小生の顔を見るなり、大きなため息をつきました。どうしてかしら。