2011年9月30日金曜日

死刑台のエレベーター ノエル・カレフ 宮崎嶺雄訳

1958


書 名 死刑台のエレベーター  クライム・クラブ10
著 者 ノエル・カレフ(1907−1968)
訳 者 宮崎嶺雄(1908−1980)
解 説 植草甚一(1908−1979)
発行人 小林茂 
発行日 昭和33年9月20日
発 行 東京創元社
発行所 東京都新宿区新宿小川町1−16
印刷者 小田茂作
製本者 小高啓三 
判 型 新書判 函入り 並製無線綴じ 本文252ページ 
定 価 200円


表紙

扉(印は元所有者)

本文扉とクレジット

奥付


【ひとこと】花森安治の装釘は、先に刊行された世界推理小説全集とおなじくシンプルだ。全巻統一したデザインで、箱と表紙の色、書名の英文書体を、各巻で変えている。日本語による表記をゴシックにしているのは、書名の文字色を地色とぬき合せたり、著者名などを白ぬきにしたりするのに、あるていどの太さが必要だからであろう。漢字の明朝体は、文字の画数が多いと、インクでつぶれるおそれがある。

花森の装釘に、もし不満を感じる推理小説ファンがいるとすれば、原書のデザインが、完全に払拭されていることではないだろうか。そのころのペーパーバックのばあい、コミック調の表紙が多い。わかりやすいけれど、なんとなく幼稚に見える。ぎゃくに花森の装釘は、よくいえばハードボイルド、悪くいえばスノビッシュな印象を与えなくもない。本シリーズはファンの受けがよく、花森のクールな装釘も売り上げ増加に一役かったと言えるだろう。


表紙全体

函(ウラ面)


【もうひとこと】クライム・クラブは、植草甚一の監修で、昭和33年から東京創元社が翻訳刊行したシリーズ。全29巻。いずれも植草の作品選択と解説が秀逸で、推理小説ファンには海外の新しい動向を知るための好ガイドとなった。たとえばここでは、作者ノエル・カエルの次のことばを紹介している。

——『その子を殺すな』がパリ警視庁賞をとると、翌日すぐ映画会社が買いに来た。一ヶ月くらいすると、こんどは『死刑台のエレベーター』が売れた。二十年間こつこつやった努力が報いられない一方、こんなこともあるんだ。なんかの賞をもらわない作家は芽が出ないということが、現在ではいえるかもしれない。

フランスを代表する推理作家カレフも、二十年も売れずに苦労したことがわかる。いま日本では、若い才能が賞をうけることが多いけれど、そのあと苦労しているのではないだろうか。


【さらにひとこと】翻訳の宮崎嶺雄は、岸田國士に師事したフランス文学者。デュマ、バルザック、ジッド、カミュのほか、推理小説ではシムノン、ルルーの翻訳があり、創元社の編集長をつとめた経歴もある。花森安治とのつき合いは古く、昭和25年発行の『美しい暮しの手帖』第10号に、ジョルジュ・サンドの小説『愛の妖精』を抄訳でのせた。

蛇足であるが、岸田國士は大政翼賛会の初代文化部長、サンドは「男装の麗人」で知られる女権拡張運動家。『暮しの手帖』における花森安治のしごとは、戦前戦中に育まれた広い交際を絶やすことなく活かしており、過去から逃げるようすも、はばかるところも、ない。誰かが言っているからと尻馬に乗り、じぶんで確かめもしないことを言いふらすことを、流言飛語という。むろん自省自戒である。