1956 |
書 名 ジャーナリズムの窓から
著 者 池島信平(1909−1973)
発行人 秋山修道
発行日 昭和31年8月5日
発 行 修道社
発行所 東京都中央区日本橋小舟町2−4
印 刷 理想社
製 本 鈴木製本
判 型 B6版 上製丸背ミゾ無線綴じ カバー 本文262ページ
定 価 200円
本体表紙 |
扉 |
奥付 |
【ひとこと】カバーに描かれているのは、カメラのアクセサリー。交換レンズ、ビューファインダー、カメラ三脚のシュー部分、それにカメラケースらしきものに見えるが、レンズ以外はわかりづらい。
本書で特記すべきは、扉につかっている書体。丸ゴチである。花森安治は、めったにゴチックをつかわない人であったから、丸ゴチ(ナール)をつかっているのはきわめて稀だ。丸ゴチは、角がとれてナヨッとした感じがあるぶん堅苦しさがない。その効果をねらってのことだろうか。
表紙全体 |
カバー全体 |
【もうひとこと】本書は、雑誌編集者の池島信平の随感雑記といった趣で、大所高所から国家社会を論じるといったふうのものではない。だからといって、書いてあることは、けっして軽薄ではない。坂口安吾との思い出など、こころにしみる。なかに花森安治のうけうりとことわった一文がのせられていた。
——東京のさる大駅のホームで、若い駅員たちがひそひそ話をしていた。「だいぶ、端っぽにゴミがたまったなァ」
そのうちの一人がひきかえすと、やがて駅構内のスピーカーが大声を発した。「ホームの中央が空いております。どうぞ、中央部にお並び下さい」
説明せずともわかるとおもうが、駅員がゴミ掃除をするために乗客を移動させたのではない。仲間うちで乗客をゴミとよんでいたのである。
小生が花森安治のそばにいて、ふだん用心したのは、驚くべきその耳のよさであった。小声で話しても、ちゃんと聞こえているから、うっかり文句もいえない。花森は町にでると、人々が何に関心をもち、なにを話しているか、じっと耳を澄ませていたのだろう。