1953 |
書 名 天と地の結婚
著 者 武田泰淳(1912−1976)
発行人 野間省一
発行日 昭和28年12月5日
発 行 大日本雄辯会講談社
発行所 東京都文京区音羽町3−19
印刷人 永井直保
印 刷 永井印刷工業株式会社
印刷所 東京都中央区入船町2−3
製 本 大進堂製本
判 型 B6判 上製 カバー 無線綴じ 本文340ページ
定 価 280円
本体表紙 |
扉 |
奥付 |
【ひとこと】表紙の絵は風見、つまり風向計を真上から見たところ。生きのこった特攻隊飛行士の葛藤に、戦時下の供出ダイヤをめぐる欲望がからむ小説。戦争で人を殺した体験をもつ男が、戦後の社会でその罪をつぐなうことなく生き続けることの苦悩が、ものがたりの随所からつたわる。それは武田泰淳その人の苦悩であった。
『天と地の結婚』というタイトルはイロニカルで、理解にむつかしい。涅槃経に「生死をもって此岸となし、涅槃をもって彼岸となす」があるという。天国と地獄は、彼岸にあるのではない。人間が迷いに生きる此岸にある、それが人生だと、武田は言いたかったのではないかしら。
昭和42年9月発行の『暮しの手帖』91号、雑記帳の欄のトップに武田泰淳の随想がのっている。武田は歯がわるく、こまかく切って調理していないと食べられないのだった。戦場は、兵士の歯をダメにした。花森も初老にして義歯であった。共感できたのであろう。武田の次にのせられた随想をよんで、おどろいた。なんとダイヤの話ではないか。偶然とはおもえない。
表紙全体 |
カバー全体 |
三島由紀夫の寸評(キャッチコピー)入りのオビ |
【もうひとこと】背が焼けてしまっていたが、オビがまいてあり、その部分は色があせていなかった。本ができたころは、白地に赤と紺のオビがさぞや目立ったことだろう。けれどオビは、表紙の絵が風向計であること、著者が武田泰淳であることを、わかりにくくした。
オビのコピーは、おもてを三島由紀夫が書き、うらは武田泰淳の「著者の言葉」となっている。小説のテーマを、男の戦争体験にとっていることに、ふたりとも触れていない。そこに朝鮮戦争があった当時の世相が映されているような気がするのだが。
印刷の永井直保と永井印刷工業の名まえからおもいだした。永晃社——深田久彌『知と愛』、久米正雄『嘆きの市』をだした青春叢書の版元である。こんなところでまた花森とつながっていた。
【哀悼】辺見じゅんさんのご冥福をお祈りいたします。
かつて辺見さんは、NHK週刊ブックレビューで、拙著『花森安治の編集室』をとりあげ、花森を「戦後随一の編集者」とたたえてくださいました。二度と戦争はおこさせぬ、という辺見さんの強いおもいが、戦場でいのちを失った兵士の魂をいたむ作品をうみました。合掌