1951 |
書 名 落城
著 者 田宮虎彦(1911−1988)
発行人 黑田秀俊
発行日 昭和26年3月5日
発 行 東京文庫
発行所 東京都港区赤坂田町7−3
印刷人 小泉昭
印 刷 三協印刷株式会社
製 本 文共堂
判 型 B6判 上製 平綴じ 本文274ページ
定 価 190円
扉 |
奥付 |
ウラ表紙 |
【ひとこと】田宮虎彦は東京生れ。父親が船員であった事情により神戸で育つ。花森安治とは雲中尋常高等小学校で同級生だった。田宮は秀才コースといわれた神戸一中から旧制第三高等学校(京都)をへて東京帝大文学部へ進み、在学中は同人誌『日暦』に参加した。ついで『人民文庫』同人になるが、治安維持法下では執筆活動がかなわず退会。そのときの同人との確執が田宮の作家人生に濃い影をおとすことになった。
『落城』——藍一色で描かれた扉は、どんな筆でかいたのだろうか。とても素朴な感じがするが、それがむしろこの小説の主人公の内面をあらわしているようにおもえる。花森は、絵でも字でも、いろいろなものを使ってかいた。花森安治の装釘で特記すべきことの一つである。
表紙全体 |
【もうひとこと】城郭の柱であろうか。その太い木組が、この小説の重厚さをあらわしているようだ。読後あらためて見ると、「人柱」ということばを想いおこさせる。
この『落城』は、歴史小説の体裁をとっているが、危機下において、意地や体面にとらわれる人間のおろかさと、状況に翻弄されてしまう人々の苦悩と絶望が描かれている。福島第1原発が、なぜかいま落城寸前の黒菅城にみえてくる。勝てない相手に勝てるかのような期待を、自他に抱かせようとしているのでなければよいが。