2011年4月11日月曜日

夜の藝術 辻久一

1949

書 名 夜の藝術
著 者 辻久一(1914−1981)
発行人 森川辰郎 
発行日 昭和24年5月20日
発 行 審美社
発行所 東京都港区新橋田村町6−17
印刷者 山村榮
判 型 B6判 上製平綴じ 本文298ページ
定 価 200円


本文扉
あとがき後半と奥付(画像の上でクリックすると拡大します)

【ひとこと】辻久一は、映画評論家、プロデューサー。日本映画の黄金期、『雨月物語』『山椒大夫』や『眠狂四郎』『座頭市』など、大映で数多くの名画を企画した。テレビの普及により映画産業がおちぶれて以後は、野上徹夫の筆名でテレビドラマの脚本をかいた。東芝日曜劇場の『カミさんと私』は代表作。ほのぼのとしたホームドラマだったことをおぼえている。

そんな印象をもって花森安治の表紙を目にするとき、書き文字の大胆さといい、バウハウスの影響をおもわせる配色デザインといい、すさまじい迫力にたじろぐほどだ。辻の映画論と演劇論は硬質ではあるが、若々しい情熱と、革新性に満ちている。花森は本書をよみ、よほど意気に感じたのではないか。むかしの青年たちは酒をくみかわし、なにかと論じ合ったものだ。扉にえがかれた徳利のかずが、青春の日々の昂揚をつたえている。斗酒なお辞せず——辻は日本酒が好きだったのかしら。

ウラ表紙
オビ
【もうひとこと】花森の装釘本にはめずらしく、オビがついている。辰野隆の序文を惹句にしているのだが、ごらんのように、辻久一の名まえがかくれ、表紙の迫力がそこなわれてしまっている。
あとがきに辻は、辰野隆らへの謝辞をのべたあと、発行人の森川辰郎と同様、旧制松江高校で花森の後輩であったことを書いている。自著がはじめて本になったとき、誇らしさに弾ける気持がある反面、気恥ずかしさに隠れたくなる思いが交錯する。いわく言いがたい心情をオビが代弁しているかのようだ。

表紙全体