1948 |
書 名 獣よりも強く
著 者 田村泰次郎(1911−1983)
発行人 梅山糺
発行日 昭和23年12月30日
発 行 實業之日本社
発行所 東京都中央区銀座西1−3
印刷所 帝都第一印刷株式会社
製 本 小原製本
判 型 B6判 上製平綴じ 本文240ページ
定 価 150円
扉 |
【ひとこと】花森安治の表紙は、女性用ベルトとコンパクトをあしらった構図の大胆さに、タイトルの描き文字の力強さがあいまって、ひじょうに斬新だ。それだけに一見、タイトルとちぐはぐな印象をあたえる。さらには扉——水彩で淡いピンクに染まった花のかれんさ、鉛筆でのびやかに書かれたタイトル、著者名と出版社名——ひらいた瞬間、その清楚なさわやかさが、なにかを浄化したのを感じずにはいられない。三つ子のころから、色香に迷いっぱなしの小生なんぞには、なおさらだ。
本書を読んで、あらためて花森の感受性のこまやかさを知った。美しいものこそ、いわれなき権威にすぐる。
奥付 |
ウラ表紙 |
【もうひとこと】田村泰次郎には、中国大陸での5年にわたる戦場体験がある。それがこの小説の主人公、復員したばかりの作家會田圭吾に、こんな虚無的なひびきのあるセリフを吐かせる。
——僕は、人間が残酷であることには、絶対におどろかない自信がありますよ。戦場ぢゃ、みんな獣だ——(原文正字)
田村の作品には、人間は獣にもひとしくなる存在ではあるが、なおその魂は「獣よりも強く」崇高である、という思いがこめられており、それが戦争で疲弊しきった日本人のこころに大きな共感をあたえた。戦場におもむくこともなく、安全な場所に疎開してすごした文化人や識者にかぎって、田村の文学を退廃的だと非難した。おなじ戦場体験をもつ花森安治が、怒りをおぼえたのは当然であろう。
表紙全体 |