2011年8月8日月曜日

満ち足りた結婚 L・ティザード

1954


書 名 満ち足りた結婚 新書版   
著 者 レスリー・ティザード
訳 者 江上照彦(1922−1989)
発行人 栗本和夫
発行日 昭和29年6月15日
発 行 中央公論社
発行所 東京都千代田区丸ノ内2−2丸ビル592区
印刷人 大橋芳雄
判 型 新書判 並製平綴じ カバー 本文224ページ
定 価 130円


カバー裏

奥付


【ひとこと】カバーの色あせが惜しい。著者のティザードの生没年は不詳。訳者あとがきによれば「英国人で、バーミンガム市の結婚指導会の会長」とある。訳者の江上照彦は、日本バートランド・ラッセル協会理事、社会思想研究会理事をつとめた啓蒙家。ということは、結婚指南の書ではあるが、あのほうの技巧伝授を期待してはいけない。

花森安治のカバーは、しあわせな結婚生活の扉をひらくにはテクニックだけではなく、智慧という鍵が必要であることを示すものであろう。しかるにその鍵を、男性器になぞらえてフロイトのリビドー発達期にあてはめたのか、花森をマザーコンプレックスと想像した御仁がいた。花森の「女装」もあずかっただろうが、私生活を語らなかったため、妻子があることを知らなかった人は意外と多い。ついでにいっておけば、男が公の場で妻子の話をするのをつつしむ文化が、日本にはある。


カバー全体

1952 単行本のカバー(装釘者不明)


【もうひとこと】本書は昭和27年、おなじ中央公論社から単行本として出版されている。内容は、結婚生活について、若いふたりに夢を抱かせようというのではなく、むしろそこにあらわれる現実問題に、目を向けさせようとするものだ。二カ月間に六回も版を重ねているところをみれば、売れゆきはよかったのであろう。ただ、いまの感覚からすれば「満ち足りた結婚」のタイトルは、手にとるのにちょっと照れませんか。

小生が関西大学の学生だったころ、すなわち70年安保前後、ラジオ大阪の長寿番組に「融紅鸞の悩みの相談室」という人気番組があった。融紅鸞(とおる・こ うらん)こと画家の胡桃澤美代子が回答する人生相談である。夫の問題行動について、妻が相談するのだが、融紅鸞のトドメのセリフが「そら、あんさん、別れなはれ」。これがギャグとして流行った。夫に服従することは妻の美徳ではないと、女性が考えはじめた。フリーセックス、ウーマンリブということばが世間をにぎわせ、『夫婦』『卒業』『ある愛の詩』などの映画が多くの観客を集めていた。貧しさからぬけだし、女性が自立しようと一生懸命の時代であった。