逆立ちの世の中 カバーおもて |
書 名 逆立ちの世の中
著 者 花森安治(カバー本文扉イラスト)
解 説 松家仁之
発行日 平成28年2月25日
発 行 中央公論新社
発行者 大橋善光
発行所 東京都千代田区大手町1−7−1
印刷所 三晃印刷(DTP平面惑星)
製本所 小泉製本
判 型 文庫 本文247ページ
定 価 780円+税
「編集付記」にあるように、本書は1954年に河出書房からでた新書を文庫化したものです。すでに62年の歳月がすぎています。しかし、読んでいると、これはまさにいまのことを言ってるのではないか、とおもえる箇所がずいしょにあります。たとえば——
《書生論というのは、しかし理に合うか合わないかを大切にして、シキタリ・ナラワシにはこだわらぬ考え方である。世間では、その書生論をケイベツして、シキタリ・ナラワシのワクの中で上手に泳ぐ「オトナ論」を尊重したがるふうがあるが、それでは見たまえ、いまの日本のありさまを。
MSAにしたって、保安隊にしたって、いや、それより何より、昨今の呆れ果てた疑獄の、あのザマを見たまえ。「オトナ論」をふりまわし、書生論を青くさいとケイベツする連中の、さかしらにやっていることが、アレだ。》
文中にみえるMSAと保安隊は、いまの日米安保条約と自衛隊がつくられるもとになった軍事協定と武装組織であり、「昨今の呆れ果てた疑獄」とは、アベさんが尊崇するおじのサトーさんが手をそめた造船疑獄(贈収賄)事件のことです。どうですか。これらを閣議決定で憲法解釈をかえて戦争法をつくったり、アマリさんら閣僚がやったりしたことに置き換えれば、まさに「いまの日本のありさま」ですよね。
「書生論」は、いまではつかわれない言葉ですが、学生や若者の意見といえるでしょう。花森は、学生や若者のそれが「理に合うか合わないかを大切に」する考え方から生まれるものであり、またそれが健全で公正な社会をたもつのに必要な姿勢として、期待しています。安保法制の廃止をもとめ、野党の一致団結をのぞむ若者たちの考えには、党利党略をこえた理があります。愚かな「オトナ論」の側には立ちたくないものです。花森安治の主張は、今もけっして古くありません。ぜひ読んでください。あした3月11日、東日本大震災、福島第一原発事故がおきたあの日から、早五年をむかえます。
【もうひとこと】
きょう3月10日は、故大橋鎭子さんの誕生日でした。朝ドラ「とと姉ちゃん」の放映が近づいて、いろいろと関連本が出版されますが、やはり鎭子さん本人がかいた『「暮しの手帖」とわたし』(暮しの手帖社より近日ポケット版を刊行)がおすすめです。身近に接したひとの思い出はふしぎで、歳月とともに澄んできて、やさしいものに変わってゆきます。そういえば、妹の芳子さんも誕生日は3月10日。姉妹おなじ日なのでした。そしてこの日は、奇しくも東京大空襲の日でもあります。
右から鎭子さん、宮岸毅さん、芳子さん。この写真は昭和58年春、赤坂のレストランで小生ら夫婦が結婚披露したときの一コマ、同僚の中川顯くんがとってくれていました。小生は退職して十年いじょうもたっていたのですが、会社以外の場所でしばしば会っています。いろいろと用を仰せつかりました。それがいまとなっては、やっぱり鎭子さんらしい、とおもえてきました。四人は、もういません。
逆立ちの世の中 カバーうら(帯とも) |
【さらにひとこと】
松家仁之さんの解説が読ませます。花森の著作だけでなく、『暮しの手帖』そのものをよく読んでおられたことがわかり、うれしくよませていただきました。
【3月17日のひとこと】
今夜で、国谷裕子さんのNHKクローズアップ現代が終った。 世界に開かれていた「窓」を失ったようで、さみしい。視聴料を払っている甲斐が、ますますなくなった。